D1の横山大輝です。今年の生態学会であった増本泰河さんが所属する信州大学 理学部 物質循環学コース 牧田研究室に遊びに行きました。
7/5「樹の環境適応を地上部と地下部から考えるセミナー」
大滝萌 「ハンノキが滞水下で枯死しないのはなぜか:地上部の機能維持」
庄司森 「残雪による芽吹きの遅延はどのようにして起こるか?
開葉に至る冬芽吸水に着目して」
横山大輝 「多雪地での樹形形成への力学的制約」
細井彩 「解剖学的手法を用いた細根寿命の解明-原生木部に着目した探求-」
上記4つのプログラムのセミナーを開催しました。山形大学からは大滝さん、庄司さんと私の3名が発表し、信州大学からはM2の細井さんが根が入っている深さと根の寿命の関係についての発表をしてくださいました。
我々の発表の中身についてはいつでもお話しできるので、今日は細井さんによる発表の内容について少し紹介+そこで私が思ったことを書きたいと思います。
植物も動物と同じで寿命があります。同じ「死」でも個体として死ぬパターンと細胞や器官が死ぬパターンの二つがあります。今回は後者についてです。私が小さいとき悪いことをするとよくばあばからげんこつをされてました。げんこつによって頭の細胞の少しは死にますが、私自身は死んでいません。そして、また新しい細胞が作られます。細胞は死んでは生まれるを繰り返します。つまり、植物でも動物でも個体は死なないけど、細胞や器官レベルでの死と生を繰り返します。こんなイメージで伝わりますか?
先ほどのげんこつの話では外的な影響で細胞が死にましたが、今回の根の場合はその根を伸ばした時からその根の寿命が決まっているという内的な要因によることがげんこつとの違いです。
細井さんの発表タイトルにもあるように原生木部の数と根の寿命が関係しています。原生木部数が多い根は寿命が長く、反対に少ない根は寿命が短いです。そして、その根の細さなどの違いは根の機能と関連しているそうです。細い根は水分吸収の機能が高く、逆の太い根は吸水した水を幹まで輸送する機能などが高いです。そこで、細井さんの発表では根が入る深さと原生木部数や解剖(水分吸収、輸送機能)を調べることでどの深さにはどんな機能を持つ根を伸長するのかを調べていました。
樹木は根を地下深くにも伸ばしますが、表層にも伸ばします。表層の土壌は深層よりも水が少ないそうです。そして、当たり前ですが深層から幹の距離と表層から幹の距離を比べると深層からの方が長いです。そのため、表層には原生木部数の少なく、水分吸収機能が高い細い根を伸ばし、深層には原生木部数が多い、水分輸送機能が高い太い根を伸ばすそうです。我々が普段気にしない地下部では、表層と深層間の水分状況の違いに応じて適応的な根を伸長しているということが分かり、面白かったです。
今、このブログを書いてて、原生木部数、つまり根の寿命と根の機能の関係にはどのような意義があるのかについて気になりました。細井さんが発表でもし説明してくれてたらごめんなさい。先に謝らせてください。
樹木でこの寿命が異なることの説明として色々な考え方がありますが、1つに経済学理論での解釈があります。葉の寿命の例で説明すると、どんな葉を出すかを決める個体を店長、出た葉をバイトだと考える。そして、葉を出すために必要な炭素量をお金だと考えると、面積が同じだとすると薄い葉は安く、厚い葉は高いです。つまり、薄い葉の日給は安く、厚い葉の日給は高いです。すると、店長である個体は薄い葉より厚い葉をできるだけ長く働かせたいです。この働く時間が葉寿命です。色々端折っていますが簡単に言うとこんな感じです。
私は、根の寿命でも、もしかしたらこの考え方を投影することができるかなと思いました。すると太い根の寿命が長いのが納得できると思います。
以下は、次の日のエクスカーション in 乗鞍 (←信州大の方々の調査地の1つ)での写真です。
標高約2500mの調査地です。オオシラビソとダケカンバが優占しています。
オオシラビソの枝と根です。
オオシラビソは針葉樹で枝分かれが非常に規則的です。根も同様に規則的でした。地上部の形態と地下部の形態はざっくりと似ていると増本さんもおっしゃていました。
根と枝は水を輸送する器官であり、機能も似ている部分が多いです。枝分かれした先の枝は枝分かれの基の枝より水分輸送機能が低いです。基の枝の水分輸送機能が高いのは、枝分かれした先に付く葉に分配できるだけの水を輸送するためです。イメージは枝分かれの基の枝が高速道路やバイパスで、枝分かれした先の枝が下道です。一方、根では、枝分かれした先の細い根が吸った水を効率的に幹まで輸送するために基の太い根の水分輸送機能が高いのだと思います。
先ほどのセミナーの話でも、根の寿命や機能は根を伸ばしたときから既にある程度決まっているとのことでした。しかし、枝ではその機能が変わることがあります。例えば、基の枝の先が枯れると、枝分かれした先の枝が基の枝と似た太く、水分輸送機能が高い枝に変わります(専門的には頂芽制御の解放、Release from apical controlとか表現する)。個人的には、基の太い枝である高速道路やバイパスが壊れ、それを再構築しているような感覚の現象です。
根ではそのような現象がないとしたら、何かしらのストレスにより原生木部数の多い太い根が枯れたとき、どのようにしてその空間に伸ばす根を再構築するのか、そんなことすらしないのか?色々考えました。分かる人がいましたら教えて欲しいです。
書きすぎたので、さすがにもうやめます。
左からエクスカーションに連れて行ってくれた増本さん、橋本君です。実際に根を掘って見せて、説明してくれている様子です。
飲み会での集合写真、みんないい顔です。めちゃ楽しかったです。また飲みましょう。
お知らせです。
10月に牧田研究室の皆さんが逆に山形大学に来てくれて、庄内生態学セミナーで発表してくださるとのことです。是非。
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